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秋田地方裁判所 昭和46年(行ウ)8号 判決

原告 板倉貞一 ほか一六八名

被告 秋田営林局長 ほか五名

訴訟代理人 宮村素之 伊藤俊平 大宮由雄 ほか一六名

主文

一  別表「被告処分行政庁」欄記載の被告らが昭和四六年一月三〇日付で同表「原告被処分者」欄記載の原告らに対して、それぞれ行なつた同表「懲戒処分の種類」欄記載の懲戒処分は、いずれもこれを取消す。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  原告らの主張

1  (原告らの地位)

別紙当事者目録のうち、原告番号1ないし9番記載の原告ら

は、その任命権者である被告秋田営林局長に、同10ないし39番記載の原告らは、その任命権者である十和田営林署長に、同40ないし101番記載の原告らは、その任命権者である上小阿仁営林署長に、同102ないし123番記載の原告らは、その任命権者である能代営林署長に、同124ないし140番記載の原告らは、その任命権者である本荘営林署長に、同141ないし167番記載の原告らは、その任命権者である角館営林署長によつて、それぞれ任用され、各所属営林署管内において国有林野事業に従事していたものである。

2  (懲戒処分)

被告らは、いずれも前記任命権に基づき、昭和四六年一月三〇日、原告らに対し、別表の懲戒処分の種類欄(以下「処分欄」という)記載のとおりそれぞれ懲戒処分をした。

3  しかしながら、被告らのした右各懲戒処分は違法のものであるから、その取消しを求める。

二  原告らの主張に対する被告らの認否

1  原告らの主張の第12項は認める。

2  第3項は争う。

三  被告らの主張

1  (争議行為)

(一) 本件争議行為に至る経過

被告らの上級官庁である林野庁は、国有林野事業に従事する作業員の雇用基準、賃金、休暇等の基本的労働条件について、原告らの所属していた全林野労働組合(以下「全林野」という)との間において、度々交渉をもち、数々の協約をなして、近代的合理的雇用制度の改善に努めてきた。

(1) 国有林野事業における雇用制度とその処遇

国有林野事業に従事する職員のうち作業員とは、行政機関の職員の定員に関する法律およびこれに基づいて制定された行政機関職員定員令に定められた職員(いわゆる定員内職員)以外の職員(いわゆる定員外職員)をさすが、右作業員は、昭和四四年四月の「定員外職員の雇用区分、雇用基準、および試用期間に関する覚書」の締結により、さらに常用作業員、定期作業員、臨時作業員とに分かれ、常用作業員については、一二か月を超えて継続して勤務する必要があり、かつ、その見込みがあること、および事業運営上の必要により勤務地の変更に応じられること、定期作業員については、毎年同一時季に六か月以上継続して勤務することを例とする必要があり、かつ、その見込みがあること、および事業運営上の必要により勤務地の変更に応じられること、臨時作業員については、常用および定期作業員以外で臨時に勤務する必要があること、がそれぞれ定められており、右基準に照らして作業員を採用しているが、常用作業員については、形式的には有期の雇用であるが、雇用は必ず更新され、実質的には期間の定めのない雇用として、安定した雇用形態にあり、定期作業員については、毎年一定期間の雇用であるが、雇用期間が満了となつて、いつたん退職しても当該営林署における事業実行上の事情が同様であれば、翌年度も当年度雇用した者を雇用する建前になつていて、現に安定した反復雇用が行なわれている。次に、賃金制度については、国有林野事業に従事する職員には、国の経営する企業に勤務する職員の給与等に関する特例法(以下「給特法」という。)が適用され、右給特法三条二項に基づき、手続上は公共企業体等労働関係法(以下「公労法」という。)八条に定める団体交渉によつて決定されることになつており、林野庁と全林野とは右により団体交渉を行なつた結果、昭和三六年九月「国有林野事業に従事する作業員の賃金に関する労働協約」その他の協約を締結し、以後これによつて処置している。右賃金協約等は、賃金を基本賃金と諸手当に大別し、基本賃金については、日給をもつて定められ、その賃金の支払形態は大要定額日給制と出来高制の二本建てとなつている、諸手当には扶養手当、期末手当、(夏期手当、年末手当、年度末特別給)、寒冷地における諸手当、住居手当、山泊手当等があり、更に、休業に対する賃金保障の制度として特別休暇の賃金、休業手当および不就業手当の制度が確立されている。なお、旅行にあたつては、国家公務員等の旅費に関する法律等によつて旅費が支給されている。又、定期作業員に対して、その退職期間中の九〇日間、国家公務員等退職手当法による失業者の退職手当が支払われ、その資格を取得していない者に対しては、失業保険法が適用され、その失業保険金が支払われることになつている。更に、休日、休暇等については、原則として毎日曜日を週休日としているほか、毎月二日の作業休日を設け、又、国有林野事業に従事する作業員については、労働基準法に定める年次有給休暇日数をはるかに上回つた日数が定められ、更に、右有給休暇のほか、作業員就業規則に基づき、各種の特別休暇および欠勤の承認の制度が設けられ、前者については賃金または休業手当が、後者については事由により休業手当又は不就業手当が支給されている。

(2) 雇用安定、処遇改善のための「二確認」について

昭和四一年三月林野庁と全林野との間で雇用安定に関する問題等について団体交渉が行なわれ、同年三月二五日の団体交渉において全林野は、「当局は、国有林の経営にあたつて直営直用をいかに拡大するか、雇用安定をどのように考えるか。」との質問を行ない、これに対し林野庁当局は、「当局の方針を説明すれば、本日の国会で農林大臣が『国有林の経営については中央森林審議会の答申もあり、目下鋭意検討中であるが、国有林の経営の基本姿勢として直営直用を原則として、これを積極的に拡大し、雇用の安定を図ることを前提として検討して参りたい。なお、通年化については努力して参りたい。』と述べた趣旨に沿つて検討を進めていく考えである。」と雇用安定等に関する林野庁の方針を表明し、確認した。いわゆる三・二五確認と称されているもの。)

その後、昭和四一年六月三〇日に林野庁は雇用安定等に関し、「雇用の安定については、林業基本法九条ならびに三月二五日表明した方針の趣旨に基づき、従来の取り扱いを是正して基幹要員の臨時的雇用制度を抜本的に改めるという方向で雇用の安定をはかる考えである。この基本的な姿勢に立つて、さしあたりの措置としては生産事業の通年化による通年雇用の実現、事業実施期間の拡大あるいは各種事業の組合せによる雇用期間の延長などによつて雇用の安定をはかる考えである。なお、これらの具体化にあたつては、労働組合と十分に協議話し合いを行ない意思の疏通をはかりながら円滑に進めていく考えである。との考え方を示し、確認した。(いわゆる六・三〇確認と称されているもの。)

以上の二つが二確認と称するものであるが、三・二五確認は、国会における雇用安定についての審議と関連して、労使間でかねてから懸案事項とされていた雇用安定等に関し、基本的な考え方を表明したものであり、また、六・三〇確認は、これをさらに具体化した形で示したものであるが、その解決の前提として、関係省庁との調整、予算措置など林野庁が単独で即時実施を期待し難い諸種の困難性が予想されるところから、当面の措置として、事業の通年化、事業実施期間の拡大、あるいは、各種事業の組み合せ等に、常用化、雇用期間の延長を逐次実施しようとするものであつた。

(3) 二確認をめぐる労使の交渉と改善の実態について

林野庁は、二確認以後、基幹要員の臨時的雇用制度を抜本的に改善するため、雇用制度問題検討会を設置して鋭意検討を重ねていたが、昭和四三年一一月九日全林野に対し、事務段階の素案を提示し、目下検討している雇用制度改正の方向については非公式に説明した。その概要は〈1〉雇用区分〈2〉雇用基準〈3〉勤務関係〈4〉賃金体系〈5〉その他(退職手当、休職給)について、新制度における身分関係、処遇関係の体系について基本的な考え方を述べたものである。特に、雇用区分については、現在の常用、定期作業員のなかから選考により年間を通じて就労する通年常用と、一年のうち一定期間就労する有期常用の制度を設け、これら新常用作業員については、国家公務員法(以下「国公法」という)上の常勤の職員とすることができないかどうか、また、通年常用については、国家公務員等退職手当法四条の適用についてなど検討していることを明らかにし、現行の雇用制度に比して抜本的な改善を図つていることを示した。さらに、同年一二月二七日には、臨時的雇用制度を抜本的に改めるという姿勢を明らかにした。そして、林野庁としては、右の基本姿勢にたつて、昭和四五年実施を図るべく人事院行政管理庁などの関係省庁と鋭意折衝を進めたが、了解を得られず。昭和四五年二月二四日全林野に対し、常勤性付与の法制上の措置は、他省庁の雇用の在り方との関連があり、政府全体の任用の方針との間にさらに調整を要することなどから、林野庁独自の判断では行ない得ないので昭和四五年度実施は見送らざるを得ない旨説明した。その後、林野庁は昭和四六年度実施を図るべく努力した結果、関係省庁の了解が得られることを前提として昭和四五年七月、雇用区分改正案として、従来の作業員の雇用区分を改め、基幹作業員と臨時作業員に区分し、基幹作業員の資格要件を定め、現行の常用、定期作業員の中から選考する、基幹作業員については国家公務員法上の常勤職員として取扱うことを全林野に非公式に提示した。(いわゆる七月提案と称するもの。)しかし、全林野は右の提案に対し、同年一二月九日、一〇日の団交において、六・三〇確認の基幹要員とは現行の常用、定期作業員の全員を指すもので、これを選考し、また、年令その他の制限を附することはあらたな差別であると主張した。

これに対し林野庁は「基幹作業員の任用方法はすでに説明したとおりであり、現行の常用、定期作業員の全員を基幹作業員にする考えはない。しかし実施時期については来年度実施を目指して今後十分協議を進め、その実現に努力して参りたい。したがつて組合の自重をせつに要望する。」という回答を行なつたが、全林野はこれを不満として、同年一二月一一日始業時から全国六七営林署において、約四、〇〇〇名が約四時間の拠点ストライキを実施した。

(二) 本件争議行為

全林野は、昭和四五年七月二一日から開催された集会において、「臨時雇用制度を抜本的に改善し、常用化、雇用安定、差別処遇を改善する斗い」を決定した。これに対して、林野庁は、全林野と検討の結果、賃金その他労働条件について抜本的な処遇改善を行なうため、関係各省と折衝を続けていたにもかかわらず、全林野は昭和四五年一一月一六、一七日第四九回中央委員会で同年一二月一一日に第一次半日ストライキを、同月一八日に第二次半日ストライキを行なう旨決定し、同年一二月一一日全国六七営林署において約四、〇〇〇名が参加して平均四時間にわたる本件ストライキを行なつた。

全林野秋田地方本部(以下「秋田地本」という。)傘下にあつては、右ストライキにあたり、当局の事前の警告を無視して、前記中央委員会の決定に従い、昭和四五年一二月一一日十和田営林署分会(以下「十和田分会」という。)では秋田地本執行委員北島啓一の直接指導のもとに始業時の午前七時五〇分から勤務時間内の無許可の職場集会に参加し、十和田営林署長の発した再三にわたる職場復帰の業務命令を無視し、午前一一時三四分までこれを継続し、三時間五〇分にわたつて自己の職務を放棄した。上小阿仁営林署分会(以下「上小阿仁分会」という。)では秋田地本執行委員田中哲男の直接指導のもとに、始業時の午前七時四五分もしくは同八時から勤務時間内の無許可の職場集会に参加し、上小阿仁営林署長の発した再三にわたる職場復帰の業務命令を無視し、午前一一時三八分まで、これを継続し、約四時間にわたつて自己の職務を放棄した。能代営林署分会(以下「能代分会」という。)では秋田地本執行委員斎藤勝治の直接指導のもとに、始業時の午前七時三〇分から勤務時間内の無許可の職場集会に参加し、能代営林署長の発した再三にわたる職場復帰の業務命令を無視し、午前一〇時五五分までこれを継続し、約四時間にわたつて自己の職務を放棄した。本荘営林署分会(以下「本荘分会」という。)では秋田地本副執行委員長田村昭一郎、同執行委員石山豊の直接指導のもとに、始業時の午前七時三〇分から勤務時間内の無許可の職場集会に参加し、本荘営林署長の発した再三にわたる職場復帰の業務命令を無視し、午前一一時三〇分までこれを継続し、約四時間にわたつて自己の職務を放棄した。角館営林署分会(以下「角館分会」という。)では秋田地本財政局長伊藤光邦の直接指導のもとに始業時の午前七時三〇分から勤務時間内の無許可の職場集会に参加し、角館営林署長の発した再三にわたる職場復帰の業務命令を無視し、午前一〇時三六分までこれを継続し、約四時間にわたつて自己の職務を放棄したものである。

(三) 本件争議行為の影響

国有林野事業は、国土の保全、水源のかん養、国民の保健休養、自然保護等国有林野の有する公益的機能を確保し、又国有林野の所在する地域における農林業構造の改善、その他の産業の振興、さらに、地域住民の福祉の向上のため国有林野の活用を図り、他方、奥地未開発林の開発等を促進して林業総生産の増大に努め、国民経済にとつて重要な林産物の持続的供給源として、その需要および価格の安定に貢献すること等が要請され、その適切な管理運営が強く求められているところであり、その業務計画は長期にわたる総合的なものであるとともに、末端における事業実行の最小単位の業務についてまで盛りこんだ詳細なものであるから、一部における、えご、は決してその一部だけにとどまらず、直ちに他の部分に波及し、全体的な事業遂行に重大な支障を与え、しかも、その事業内容は、季節的、自然的制約が強く、一時的または短期の業務の停廃も有機的関連性を持つて連鎖的に他に影響し、回復困難な損害をもたらすものである。

2  (原告らに対する処分理由)

(1) 原告ら(原告番号1ないし9番)が前記職場放棄を企画して実施せしめ、あるいは、自ら指導した行為は、公労法一七条一項により禁止された争議行為に該当し、かつ、国公法九九条に違反するので、被告秋田営林局長は、国公法八二条一号、三号により別表の「懲戒処分の種類」欄記載の処分をした。

(2) その余の原告ら(原告番号10ないし169番)の前記各営林署分会において勤務時間中に無許可の職場集会に参加し、職務を放棄した行為は、公労法一七条一項により禁止された争議行為に該当し、かつ、国公法九六条一項、九八条一項、九九条および一〇一条一項にそれぞれ違反するので、被告らは、国公法八二条各号により、別表の「懲戒処分の種類」欄記載の処分をした。

3  (処分の適法性)〈省略〉

四  被告らの主張に対する原告らの認否〈省略〉

第三証拠〈省略〉

理由

一  原告らの主張の第1、2項は、当事者間に争いがない。

二  そこで被告らの主張の懲戒処分の適法性につき、以下の論述するところに従つて順次判断する。

1  被告らの主張1の(一)、(1)のうち、国有林野事業に従事する作業員の制度上の地位が被告らの主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

〈証拠省略〉および前記当事者間に争いのない事実を総合すれば、左の事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。すなわち、国有林野事業の雇用制度は、昭和二二年一二月に四国において初めて、全四国国有林労働組合同盟と高知営林局との間に労働協約が締結されて、戦前からの雇用形態が改革され、昭和二六年四月の営林局署労務者処遇規程等によつて全国的に実施され、昭和二八年一月一日、国有林労働者に公労法が適用されて、団体交渉権が復活し、昭和二九年三月に「定員外職員の雇用区分、雇用基準及び解雇の場合に関する覚書」を締結し、労使の協議による雇用制度が確立された。現在の雇用制度は右覚書を改善した昭和四四年四月の覚書によつていて、それによると、雇用区分、雇用基準の内容は、常勤、常用(一年以上雇用される者)、定期(毎年六か月以上雇用される者)、臨時(臨時に雇用される者)の各作業員からなり、昭和四五年一〇月現在の要員数は常勤一三六名、常用一六、〇八〇名、定期二一、一四〇名、臨時五三、〇〇三名であり、その職種の大部分は、生産手、造林手、機械造林手、育苗手等であること、その雇用基準は、作業に対する適格性を有する者で、常用作業員は一二か月を越えて継続して勤務する必要とその見込みのあることを、定期作業員は毎年同一時季に六か月以上継続して勤務することを例としその見込みのあることをそれぞれ要件として、いずれも二か月の期限付で採用されるが、常用作業員は更新により実質的には通年雇用であること、定期作業員は六か月以上一年未満の有期雇用で失職中は失業保険で生活をつないだうえ、再就業するという変則的な反覆雇用の形態となつていること、その平均勤続年数は常用作業員で七・八年、定期作業員で八・九年であること、次に、作業員の処遇については、賃金は給特法の適用を受けて、林野庁と全林野との間に労使の協約が結ばれ、年々水準の引上げによる部分改定を行なつていて、諸手当については、退職手当は「国家公務員等退職手当法」によるほかは、殆んど労使の協約によつているが、無期限のものと、年度限りのものとなつていること、労働時間、休日、休暇については全般的に就業規則に規定されたが、その後部分的に改良を加え、その場合には労働協約を締結するので、労働条件は労使の協約と就業規則等法規によるものとに分離され、厚生、福祉については「国家公務員共済組合法」等の法律と「営林局署職員服制」等の省令又は規則類によつて律されていて、部分的に労使の協議により決定されていること、その詳細は、賃金については、基本賃金は常用、定期各作業員とも日給制であつて、その支払形態には定額日給制と出来高給制の二種があり、その金額は昭和四五年次で月給制職員の基準内平均賃金が六三、九一〇円であるのに対し、日給制職員たる常用作業員のそれは五三、〇一五円、定期作業員のそれは四四、六八九円で、規模別賃金との比較では、全産業の三〇人から九九人程度の企業と同様で、全体産業の賃金に比すると、七八・三パーセントの賃金額であること、諸手当については昭和四七年四月現在で石炭手当、薪炭手当、寒冷地手当、扶養手当、年末手当、夏期手当、年度末手当、別居手当等の支給を受けることになつているが、月給制の定員内職員と比較して、石炭手当、薪炭手当は常用作業員は約六〇パーセント、定期作業員は約四〇パーセントであり、寒冷地手当については常用作業員は約四〇パーセント、定期作業員は約一二パーセント、年末手当、夏期手当、年度末手当は常用作業員は定員内職員に準じた取扱いを受けるが、定期作業員はそれよりは少なく、現場手当、隔遠地手当は無支給であること、諸休暇は年次有給休暇では勤続一〇年以上の常用作業員が勤続一年以上の定員内職員と同様の二〇日間、定期作業員は六日間、祝日は常用作業員が昭和四五年次で七日間有給、定期作業員は無給(但し、年給に準じた有給休暇三日を与える)であり、他に婚姻、配偶者の分べんについては定員内職員が有給であるのに比し、常用、定期各作業員はすべて無給であり、他に生理日、忌引、公務災害、私傷病手当等の点でも定員内職員との間に差があり、退職手当については常用、定期作業員には国家公務員等退職手当法の三条のみが適用されていること、その他定期作業員は共済組合の加入ができないこと、宿舎も常用、定期各作業員には事業宿舎及び第二種宿舎であり、制服も無く勤務時間も定員内職員は週四四時間であるのに、常用、定期作業員の場合は四八時間であること、右のような格差の是正と定員外職員の身分の保障、安全性が、全林野の運動の主題になつていたことが認められる。

2  同1の(一)、(2)のうち、雇用安定、処遇改善の二確認が全林野と林野庁の間でなさされたことは、当事者間に争いがない。

3  同1の(一)、(3)のうち、昭和四三年一二月林野庁が臨時的雇用制度を抜本的に改めるべき基本姿勢を示したこと(いわゆる議事録抄No.3確認)、昭和四五年七月林野庁からいわゆる七月提案のあつたことは、当事者間に争いがない。

そこで、労使間の接渉を見てみるに、〈証拠省略〉および前記当事者間に争いのない事実によれば、前記雇用制度の二確認をめぐる労使交渉の経過について次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

全林野は、従前の下請、臨時的雇用形態を打ち破るべく、昭和四一年三月二五日に雇用安定を図る直営直ようの拡大を、同年六月三〇日に通年雇用の拡大、雇用期間の延長、福祉厚生面の拡充等を骨子とする二確認を林野庁との間で確認し、以後この二確認の具体化と現実化を目指して交渉を重ね、昭和四二年一二月二三日、差別を撤廃し、臨時雇用制度を抜本的に改善する要求ならびに第一線現場の環境改善に関する要求等についてのいわゆる団体公渉議事録No.1を確認し、更に昭和四三年四月一二日には現場作業員の常用化を図るいわゆる議事録No.2の確認を、昭和四三年一二月二七日には林野庁との交渉の結果、〈1〉基幹要員については通年雇用に改める、〈2〉基幹要員については常勤性を付与する〈3〉処遇関係についても常勤性にふさわしいように改善するとの事項が確認され(いわゆる議事録No.3)、併せて林野庁は当面検討中のものを昭和四四年一月までに具体案を示すとのことであつたが、昭和四四年三月二九日に、常勤性付与については関係各省庁と折衝中で、未だ調整がつかないが、今後すみやかに実施するべく努力をし、常用化についても休業期間をふくむ通年雇用の検討をすすめることのいわゆる議事録No.4を確認したこと、このような労使交渉の中で定期作業員の一部常用化と作業員の処遇が徐々に改善され、休暇日数の増加とその有給化や諸手当の改良が加えられたが、全林野は、未だ「二確認」以後、林野庁の基本的姿勢に変りがないとして、昭和四四年一二月六日には常勤性付与の具体化を迫るストライキ配置を予定したが、林野庁の四五年度実施を図るべく努力するとの回答によりストライキの回避となつたが、その後林野庁は、昭和四五年二月二五日、関係各省庁と折衝中であるが、さらに調整を要するので、四五年度実施は困難であるとし、更に同年三月二七日、同四六年実施を目標に実現すべく七月末に組合に説明するとし、同月二八日予定されていた全林野の二時間の拠点ストライキの回避にあたつたこと、そして、同年七月林野庁は、全林野に対し事務段階の素案であるいわゆる七月提案(雇用区分改正案として、従来の作業員の雇用区分を改め、基幹作業員、臨時作業員に区分し、基幹作業員は資格要件を定め、現行の常用、定期作業員から選考する、基幹作業員については国家公務員法上の常勤職員として取扱うこと)を提示したこと、これに対し、全林野は、右提案は基幹作業員にのみ常勤性を付与するもので、しかも基幹作業員には職種を特定し、選択を行ない、年令を制限するものであるとし、組合要求とは相容れないものとしてストライキでもつて対抗することが決議されるとともに、労使交渉を続け、林野庁に対し、「合理化に対する三二項目の質問、要求を出し回答を待つたが、同年一〇月二七日農林政務次官は国有林野事業の再検討に関する私案として「行政と経営の分離をも含めて再検討を加える」と提案したこと、その後、林野庁は、同年一二月一日、四六年度実施の方向という従来の回答から「常用化については四七年度から五ケ年計画の中で展望を明らかにする、四六年度分は政府予算確定後の実行段階で明らかにする」というように変化し、全林野は従来の交渉の経緯から林野庁に誠意が見られないとして局面の打開を図るべく、ストライキを昭和四五年一二月一一日(本件争議行為)と同月一八日の二波にわたつて実施するに至つたことが認められる。

4  同1の(二)の原告らが被告ら主張の如きストライキ行為をなした事実は、当事者間に争いがない。

5  同1の(三)については、国有林野の事業態様と本件争議行為による影響について検討するに〈証拠省略〉によれば、我が国の森林面積は二、五〇〇万ヘクタールで、国土面積の六八パーセントを占め、田畑面積がわずか一六パーセントの割合であることと比較すると、その比率が高く、そのうち林野庁所管の国有林は七八四万ヘクタールで森林面積の三一パーセントを占めていること、森林蓄積総量の約一九億立方メートルのうち国有林は約八億七、一〇〇万立方メートルで森林資源の四六パーセントであること、そして、その作用するところは、水資源のかん養、国土の保全、保健休養、野鳥獣保護、大気浄化等の公益的機能を確保しながら森林資源の培養、生産力の向上に努め、林産物の持続的供給をもつて価格安定を図ろうとする経済的機能を有するものであること、そのため、林野庁は一四局、三五〇署の営林局、営林署の下部組織を有し、七万余人の職員をようして、民有林の私的利益追求と異なつた国家的規模にたつての長期的展望で諸々の計画案のもとに統一的に事業を遂行していること、而してその経済的機能の面では、国内の木材需要は年々増加し、昭和四五年には一億二六八万立方メートルになつたが、そのうち国有林が供給するのは約一、四八四万立方メートルで全体の一四・四パーセントにすぎないが、民有林のそれは約三〇・六パーセントのシエアを有し、残りの五五パーセントを外材が占めており、年々国有林のもつ割合は減少し、価格安定に対する機能は下つていること、公益的機能としての国土の保全、水資源のかん養等の面については、国有林のみが有する機能ではなく、国有林においても同様の機能を営んでいること、ただし、国有林野の分布は民有林と異なり、せき梁山脈に多く散在することから、重要河川の上流にあたり、国土の保全上重要な位置にあること、又その事業の遂行にあたつては、木材産業において国有林は立木処分が六割、丸太にして売却するのが四割であるところ、丸太にする作業のうち、二割は民間に請け負せ、運搬等は大部分が民間に、治山事業については事業の八〇パーセント余を民間の下請が行なつていて、全体として国有林材を一〇〇とした場合、民間業者の手になるのが六八パーセント、国有林野の労働者が直接に手をかけるのが三二パーセントであり、現場作業においてはその差が大きくなる傾向にあること、ただし、調査、計画、設計、監督、検査などの管理業務はほとんど直ようの職員が行なつていること、国有林事業は成長に長期間を要するが、植林、育苗、下刈等の作業はある程度季節的な制約を受けるものであり、業務の停廃による失地回復には長期間を要するが、その季節的制約も農作業の如き短期間のものではなくいささか余裕があるものであること、本件争議行為時は夏山と冬山の境目にあたり、例年二〇日間余程の主に冬山の準備期間であり、主作業には入つておらず、原告らの所属する各営林署とも、右期間は支障木の伐倒、架線設置、宿舎の環境整備等が主な仕事であること、当日の午前中に予定された仕事は午後すみやかになされていること、本件争議による処分後にILO理事会で違法なストライキをしたからといつてストライキをなした職員の経歴に影響するような不利益な取り扱いは苛酷であるとの勧告が出され、また昭和四八年になされた全林野のストライキ行為について処分が昭和四九年一月になされたが、右ストライキが本件争議行為に比し大規模で、全山、全職場で数日にわたつてなされたものであるにもかかわらず、右参加者の処分は戒告以上のものはなかつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

以上の事実よりするならば、国有林野事業の営む機能は、それが必ずしも国有林野にのみ限つたものではなく民有林についても同様であるとはいえ、私的利益の追求を離れ、長期的展望に立つた大規模な運営をなすものであつて、なお、公益的、経済的な面で国民生活に与える影響力には少なくないものがあり、公共性を有するものというべきである。

ところで、本件争議行為とその公共性への影響をみるならば、本件争議行為は冬山の主作業に入る前の事前準備の段階であつて、右時期は職務予定計画がなされているとはいえ、それは極めて時間的に厳格なものでもなく、又、右時期は植林、育苗等季節的時間的制約を強く受ける仕事もなく、本件ストライキによる職場放棄も午前中の四時間程の比較的短い時間であり、しかもそれは労務の不提供という不作為的な形態でなされ当日の午后には全員就労して午前中なすべき仕事にとりかかつているものであつて、本件争議行為によつて国民生活にいかなる影響が生じたかは必ずしも明らかではないこと、又、国有林野事業の業務の主要な部分は私企業によつても遂行し得るものであり、現にその何割かは民間に負うところが大であつて、本件争議行為の処分者には民間と同様の肉体労働的職務をしている末端の現業作業員までが含まれていること、更に、社会状況の変化とともに本件争議後になされた昭和四八年の全林野ストライキの処分では、いずれも戒告以上のものはなかつたのであり、本件争議での処分がその役割に合わせて停職二か月から減給、戒告と厳しいものであつたことを比較すると、本件処分は著しく重いものと言わざるを得ず、以上の点からして本件争議行為による原告らに対する被告らの処分は、あるいは本件争議行為が公労法一七条一項に触れるとするとしても、合理的な理由を欠き、妥当な範囲を逸脱した懲戒処分権の濫用と認定せざるを得ない。

三  以上の次第で、被告らがした原告らに対する本件懲戒処分はその裁量権を濫用した違法なものというべく、その余の点につき判断するまでもなく、原告らの請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 武田平次郎 田村洋三 岩田嘉彦)

番号

被告処分行政庁

原告被処分者

懲戒処分の種類

秋田営林局長

別紙当事者目録(以下目録という)原告番号1ないし9記載の原告板倉貞一ら九名

原告番号1から3の原告板倉貞一ら三名は停職二か月原告番号4から8の原告伊藤光邦ら五名は停職二〇日原告番号9の原告松田広義は停職五日

十和田営林署長

目録原告番号10ないし39記載の原告山口由太郎ら三〇名

減給(一ヶ月一〇分の一)

上小阿仁営林署長

目録原告番号40ないし101記載の原告田中善之助ら六二名

原告番号40から58の原告田中善之助ら一九名は減給(一ヶ月一〇分の一)

原告番号59から101の原告武石敬逸ら四三名は戒告

能代営林署長

目録原告番号102ないし123記載の原告七尾吉之助ら二二名

減給(一ヶ月一〇分の一)

本荘営林署長

目録原告番号124ないし140記載の原告小松仁造ら一七名

角館営林署長

目録原告番号141ないし169記載の原告加藤正孝ら二九名

別紙当事者目録〈省略〉

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